会長挨拶

医用分光学研究会は,濵口宏夫先生(東京大学名誉教授,現 台湾国立交通大学講座教授)を代表世話人として,平成16年に設立されました。東京大学で初めて開催された第1回年会では,参加者も多くは無かったと聞いております。しかし,その後,濵口宏夫先生,甲田英一先生(東邦大学医療センター教授(当時)),鈴木榮一郎先生(味の素株式会社イノベーション研究所(当時))の歴代会長のご尽力によって,年会参加者も急速に増えました。平成26年11月に開催された第12回年会は,初めての試みとして,国立台湾大学分子映像中心との共催により初めて台湾で開催され,その際の総会において,第4代会長として私,山本が指名されました。諸先輩方のご尽力に恥じぬよう,本会のために精一杯務めさせていただきたく思います。どうぞ,よろしくお願い申し上げます。以下,一言ご挨拶を述べさせていただきます。

医用分光学研究会が設立された背景には,学問としての分光学が,物理,化学等の分野では一般的な解析手法として日常的に用いられている一方,高度な専門性のために生じる敷居の高さのために,一般社会に拡がれない現状があると思います。確かに,現状では,分光スペクトルに含まれた豊富な情報を,理論的背景等を熟知した専門の研究者でないと引き出すことができないのは事実です。私たちは,この状況を変えてゆきたいと考えています。しかし,実際には全ての分光学的手法が一般社会から離れた存在という訳ではありません。例えば, MRIやCTスキャンなどは,分光学的手法を原理に用いていますが,すでに当たり前のように医療診断の前線で用いられています。これらの手法が医療診断技術として成功した最大の要因は,いずれも医学者の要望に応えた医療メーカーの努力によって,専門的知識を持っていない操作者でも,感覚的に理解できる画像として結果を提供できた点であろうと思います。我々,医用分光学研究会では,様々ある分光学的手法をもっと医療現場に持ち込み,一般社会に浸透する技術として活用することを目指します。例えば,ラマン分光法は,低侵襲的で分子の化学構造に関するスペクトル情報を多く含んでいるため,現在急速に医療現場への活用の期待が高まっています。

我々,医用分光学研究会の会員は,物理,化学,光学,医学,生物学など,種々の背景を持つ研究者・技術者等によって構成されています。会員の所属先も,会社,大学,研究所等など様々です。我々は,毎年開催する年会などを通じて,このような学際的なメンバーによる議論を深め合うことで,分光学の専門的知識を活用した医療診断技術の開発につなげたいと考えています。医用分光学研究会では,今後更に,異なる背景を持つ,多くの会員を求めています。医用分光学研究会の活動を一緒に盛り上げて,分光学の医療診断技術への応用を進めて行きましょう。

平成26年12月

医用分光学研究会会長

山本達之
(島根大学生物資源科学部教授,
島根大学 医・生物ラマンプロジェクトセンター長)