会長挨拶

山本達之先生より会長をバトンタッチされました佐藤俊一と申します。一言ご挨拶申し上げます。

本研究会を創設された濵口宏夫先生と最初にお話しさせていただいたのは2006年,応用物理学会のシンポジウムでのことでした。当時私のラボでは脳組織のバイアビリティー(活性)を散乱変化(ラマン散乱ではなく弾性散乱)で検出することに取り組んでおり,ラットを低酸素にして脳死に向かわせたとき,脳組織が特徴的な散乱変化を示すことを見出していました。濵口先生は同シンポジウムで「生命のラマン分光指標」に関するご講演をされ,酵母菌が死に向かうときに特徴的なラマン信号を発することを紹介されていたのです。生と死を分けるサインを光で捉えようとする共通点に勝手に興奮し,感銘を受け,それがきっかけで本研究会に参加させていただくようになりました。

医学も分光学もそれぞれ巨大な学問分野ですが,意外にも医用分光学にフォーカスした切り口はあまりなく,大変魅力的な研究会だと感じました。ラマン分光の大家である濵口先生が,研究会の名称にあえてラマンを入れず,広く医用分光学とされたことにも意義を感じます。もとより医学・医療は分光と密接で,例えば顔色を診ること一つをとっても分光です(拡散反射分光)。この分野で不可欠なツールである顕微鏡や内視鏡も分光技術なしには語れません。また特定波長の光で細胞や生体組織をコントロールするオプトジェネティクス(optogenetics)などの技術も,広い意味では分光に含めてよいでしょう。このように医用分光学は極めて広汎で,かつ無限の可能性を秘めているように思えます。

会長の選任にあたっては様々な領域の人をカバーすることを考慮されているようで,これまで理学,生物学,医学,産業界の先生方が務めてこられました。私は工学系の人間ということだと思いますが,少し宣伝させていただきますと,光を安全保障に関わる医学に応用するための研究を行なっている人間です。実際,世界的に大きな問題となっている爆発衝撃波による脳損傷のメカニズムの解明にラマン分光を応用する研究に着手しており,ブレークスルーを期待しています。

このように,当研究会は様々な分野の人間が横断的にディスカッションできる素晴らしいプラットフォームを提供しており,その特徴を活かした発展をお手伝いできれば大変うれしく思います。是非いろいろなご意見をお寄せください。よろしくお願い申し上げます。

令和5年9月

医用分光学研究会会長

佐藤 俊一

(防衛医科大学校 防衛医学研究センター長,生体情報・治療システム研究部門教授)